本屋大賞受賞作『蜜蜂と遠雷』詳細な内容と感想、私はのだめを思い出す。
今回恩田 陸著書『蜜蜂と遠雷』が、本屋大賞に輝きました。今回は本作を事前に読んでいた私月城が、この作品の詳細な内容と感想を書いていきます。
こちらを読めば、これがどんな本なのかがわかり、読んでみたくなること請け合いです。(恩田さんのファンとして、そこは頑張ります!)
【デザイン修正・一部修正 2017/10/28】
『蜜蜂と遠雷』概要
『蜜蜂と遠雷』は著者 恩田陸氏によって描かれた、ピアニスト達がコンクールで頂点を目指す物語です。
2017年本屋大賞だけでなく、こちらは第156回の直木賞も受賞し、史上初のダブル受賞を果たしました。
恩田先生が本屋大賞を受賞するのは今回で二回目で、第二回の時に比べ賞自体が、かなり活気あるものになっているのに対し、「この十二年の間に立派な賞になったなと思いました。やっぱり本屋大賞は私の誇りです。」と語っています。
本屋大賞に選ばれると、映画化などになることが多いので、今回の作品もぜひ映画化をして、より多くの人に作品に触れてほしいです。
私としては、映画化は絶対にヒットするという予感がプンプンしています。漫画『のだめカンタービレ』のように、原作自体も素晴らしいのですが、やっぱり作中に出てくる音楽を実際に聞きながら、物語りを追っていくのは想像しただけでわくわくします。
あらすじと詳しい内容
あらすじ
三年ごとに開催される『芳ケ江(よしがえ)国際ピアノコンクール』にはジンクスがあった。それはこのコンクールを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールの覇者になる。っというものだった。
家庭環境、年齢、背負うものまったく違う4人の男女たちが、それぞれ熱い思いをかけて、コンクール優勝を目指す物語です。
冒頭
いつの記憶なのかは分からない。
けれど、それがまだ歩きだしたばかりの、ほんの幼い頃であるのは確かだ。
光が降り注いでいた。
(中略)
明るい野山を群れと飛ぶ無数の蜂蜜は、世界を祝福する音符であると。
そして、世界とはいつもなんという至上の音楽に満たされていたことだろう、と。
引用:蜜蜂と遠雷
冒頭は移動養蜂業を営む父の元、各地を転々としていた 風間塵の幼少期の記憶から始まります。
『音』を様々な言葉で表現し、聞こえないはずの蜂たちの羽音が、きらきらした光のように聞こえてきます。
そして、場面は現代へ戻り『芳ケ江(よしがえ)国際ピアノコンクール』で審査員三枝子が退屈な審査を強いられているところに移ります。
ここで印象的だったのが三枝子の回想シーンで、友人でミステリー作家の真弓との会話でした。
どちらも食べていけるのはほんの一握り。自分の本を読ませたい人、自分の演奏を聴かせたい人はうじゃうじゃいるのに、どちらも斜陽産業で、読む人聴く人の数はジリ貧。
(中略)
なのにますますコンクールも新人賞も増えるいっぽう。いよいよみんな必死に新人を探している。なぜかっていうと、どちらもそれくらい、続けていくのが難しい商売だからよ。
引用:蜜蜂と遠雷
目指す者は多いけれど、報われる者は少ない。そして、報われない者に待っているのは、ただ黙々と下積みをしていた事実だけ。
無情な事実を、二人がお酒を酌み交わしながら語っている場面は、それだけで頷きたくなりました。
それでも、列を作りピアノに向かう若者は後を絶たない。そしてこれからも、恐らく絶つことはない。二人はこれを『輸血』と表現し、新しい血を入れないと担い手が減って、そのもの自体が衰退していくためと語っています。
伝説的音楽家が遺した爆弾
そして三枝子は、伝説的音楽家ホフマンが遺した意味深な言葉を、このコンクールで実感することになるのです。
僕は爆弾をセットしておいたよ
引用:蜜蜂と遠雷
それは爆弾というにふさわしい、風間塵の天才的な演奏でした。
塵は、まるでピアノと戯れるように緊張感などなしに演奏し、審査員たちを魅了してしまします。
そしてホフマンは塵について、こんな推薦書を残していました。
皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。
文字通り、彼は『ギフト』である。
恐らくは、天から我々への。だが勘違いしてはいけない。
試されているのは彼ではなく、私であり、皆さんなのだ。
彼を『体験』すればお分かりになるだろが、彼は決して甘い恩寵などではない。
彼は劇薬なのだ。(中略)
彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『災厄』にしてしまうかは、皆さん、いや、我々にかかっている。
引用:蜜蜂と遠雷
伝説的音楽家に『ギフト』と『災厄』と言わしめる塵について、どんどん知りたくなる言い回しです。
そして物語の結末で、塵はギフトとなれるのか?っという点もぜひ注目してみてほしいところです。
際立つ登場人物たち
鬼才の風間塵、消えた天才栄伝亜夜、崖っぷちの秀才高島明石、音楽界の王子マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。それぞれが際立つ個性を出しながらも、お互いを蹴落とすような醜い争いをするわけではなく、お互いを高め合う競いあい方には、見ていて爽快な風を感じます。
予選、本選共にコンクールならでは緊張感が登場人物たちを包み、読者は誰が優勝するのか?と言う所に惹きこまれていきます。
コンクールなので同じ曲を演奏する場面もありますが、全く飽きることはなく、音の出ないはずの本から、音の粒が溢れ出てくるように、彼らの奏でる音楽が聞こえてきます。
風間塵とのだめ
私が塵に最初に抱いた印象は、のだめと似ているなあということでした。
物凄い才能を持っているけど、それは『粗削りで』『どこか無鉄砲っで』でも『人を惹きつけずにはいられない』
『蜜蜂と遠雷』も『のだめカンタービレ』も、紙の本でできているはずが、そこから生き生きとした音が聞こえてきそうな点も。
そして、2人ともとてつもない『ギフト』を持ちながら、それを自覚しておらず周りもそれに気づかず埋もれているところも。
生活者としての音楽
私が一番胸を締め付けられたのは、応募年齢ギリギリの高島明石(28)でした。
俺はいつも不思議に思っていた──孤高の音楽家だけが正しいのか? 音楽のみに生きる者だけが尊敬に値するのか? と。
生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか、と。引用:蜜蜂と遠雷
この言葉が生活者としてしか、音楽を続けることのできない、明石の悲痛な叫びに聞こえました。
そして、死ぬ気で睡眠時間や日々の時間を削りながら挑戦する彼の姿は、思わず応援せずにはいられなくなりました。
タキシードを着て、美しいメロディを弾くためには、生きていくための仕事に忙殺され、果てしない日常を支えていかなくてはならない。
あそこに立つまでに、彼がどれだけ努力してきたか、観客たちは誰も知らない。
引用:蜜蜂と遠雷
妻や両親たちにはこのコンクールの出場を『パパは本当に音楽家を目指していたんだという証拠』と説得して出場していた明石。
しかし彼の内に秘めたる思いは、『怒りと疑問』をそれをコンクールにぶつけ、どうなるのかも見逃せません。
まとめ
この本をぜひ実際に読んでほしくて、最期のネタバレはあえて書きませんでした。それぞれ違った背景と才能を持った4人のピアニスト達が、一次予選、二次予選、三次予選、そして本選コンクールと死闘を繰り広げます。
予選でも本選でも、塵の鬼才っぷりが猛威を振るいますが、それ以上に他のピアニスト達のキャラクターも神がかり的です。
ピアノに造詣のない人でも、彼らがなぜその曲を選んだか?どういう思いで弾いているのか?がするりとわかる文章構成力には圧巻の一言です。
そして結果は書きませんでしたが、物語の佳境では『音楽という芸術にとって、才能とは何なのか?』そして、『天才とは本当に幸せなものなのか?』ということを考えさせられました。
史上初の『直木賞大賞』『本屋大賞』ダブル受賞の今作、読後は爽快な気分になりまた、一言で傑作と言える大作です。